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予防歯科講演


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パネルディスカッション


タラハン教授の講演の中で明らかとなった2種類のミュータンス菌の存在。 これを生化学、細菌学的にどのように捉えていけばよいのかを、国内の専門家とディスカッションしました。

パネラー

ルーク・タラハン
花田信弘
佐藤 裕
(カナダ ラバル大学教授)
(国立感染症研究所 部長)
(東京歯科大学 助教授)
進行
福田正臣 (日本歯科大学 助教授)



福田「今日の講演の中でまず最初に出てきたのが、XS(キシリトール感受性菌)とXR(キシトール非感受性菌)との違いでしたが、もう一度整理をする上で、XRは何故う蝕原性が低いのかということについて、不溶性グルカンの合成、酸産生能からタラハン先生にお伺いします。」
   
タラハン「これは予備的ではありますが、研究結果が示されています。ただ、予備的な結果としても非常に強力な証拠として、信頼性があるものと考えられます。まず、XRを持っている患者さんの方が、何故恩恵を被るのかということですが、酸産生能が低いということです。XSとXRを比較すると、明らかにXR(キシリトール非感受性菌)の方が酸産生能が低いのです。何故なのかということは、まだ解明されていません。それから、そのグルカン合成メカニズムがないことにで、例えば、スークロースから酸を産生する、あるいはその他の糖から酸を産生するということが効率良く出来ないということが言われていますが、これに関しては、まだ研究が必要です。」

福田「不溶性グルカンの合成において、不溶性グルカンの性質上の違いというものが明確にでてくるのかという点について、お伺いしたいのですが。」

タラハン「これに関しては、サーダリン先生が研究しています。この不溶性の多糖類の合成がキシリトールが存在した場合としない場合でどう違うのか、また、キシリトールに感受性を持つ菌株と持たない菌株ではどう違うのかということが研究されています。これらの化合物は歯面に対する付着性を持たせるということで大変重要な化合物です。例えばGTF*という物質がありますが、これらの物質は付着性を高めるという作用を持っています。XRは細胞面でこれらの物質が欠けているということにより、互いにくっ付き合わないあるいは凝着しにくいという性質があります。」

GTF*・・・ブドウ糖転位酵素と言われる、多糖類を合成するミュータンス菌を持っている酵素。 


福田「この2点について、細胞の外ということで花田先生、それから酸産生能ということで佐藤先生から、コメントをいただきたいのですが。」

花田「フルクトースPTSというのがストレスのセンサーとして機能しているのであれば、色々なGTFを含めてタンパク発現に影響があってもおかしくないと思います。」

佐藤「タラハン先生のスライドの中に出てきたPTSは、細胞の機能の色々な調節をやっているということです。その辺のことは、ミュータンス菌ではまだほとんど研究されていないというのが実情です。タラハン先生の言うように、他のグラム陽性菌・グラム陰性菌でそういう機能が幾つか報告されていることから推定されるのだと思います。ですから、解糖系の酵素の何らかのモディフィケーションというのはあるという感じはします。ただ、解糖系は非常に基本的な酵素なので、そんなに簡単にモディフィケーションされてしまうのかなというのが率直な感じですが。」

福田「GTF等付着性の変化ということになりますと、私達が日常の臨床においてキシリトールの効果に対して、どのように評価していったらいいのかということになります。唾液中、また歯垢中のミュータンスが減る、またその相関性という問題も出てきたかと思いますが、キシリトールを応用した場合の評価法にはどういったものが一番良いのかという点についてタラハン先生にお伺いします。」
  
タラハン「長期的に見れば、簡単に評価することが出来ます。患者さんのう蝕活性がどんどん下がるので、それを見れば効果があることが分かります。しかし、もっと短期的に効果を見ようとするには、実際にう蝕活性が下がっていることは計測できないわけですから、他のパラメーターを使うしかないわけです。その一つがプラーク中のミュータンス菌の数ということです。プラークの溜まり方が目に見えて少ないことが分かりますので、それは先生方が確認するだけでなく、患者さんにその効果を見せるという意味でもとても良い方法です。キシリトールを含んだガムをずっと噛んでいると、プラークの溜まり方が少ない、それは染め出し液を使うと確かに少ないことが分かりますので、目で見て分かるように患者さんに認識を持たせることが重要ではないかと思います。」

福田「そうすると私たちが日常デントカルトを使って、パラフィン咀嚼で唾液を取り、その中の細菌叢を計る方法はどうなのでしょうか。」

タラハン「普通、プラーク中のミュータンス菌数と唾液中のミュータンス菌数には、正の相関関係があるのですが、キシリトールを使っている患者さんはこの相関関係が崩れていますから、例えば唾液中にこれだけあるからプラーク中はこれぐらいだという推測ができない状況にあります。ですから、キシリトールを使っている患者さんには、それに頼って推測をする方法は適切でないと言えます。理想的には、口腔内のプラークを全部集めてきて量を計るのが一番良い方法かも知れませんが、研究者ではそれが出来ても、臨床医では不可能かも知れません。」

福田「ということは、日常の臨床の中で評価をしていく場合には、その他にどのような指標を使ったら良いのでしょうか。」

タラハン「極簡単に開業医が使える方法では、伝統的なプラークインデックスの使用が挙げられます。これは歯科衛生士が用いる方法で、そのインデックスを一定のルールで計算すれば、どれぐらいのプラーク量か計算できるようになっておりますので、それを使うのが有効です。もうひとつは、プラークの染め出し液を使うという方法で、確かにこれは目で見てぱっと効果がわかるということでは良い方法ですが、それがどういう意味あいを持っているかについては、歯科医師が解釈しなければなりません。」

福田「キシリトールの摂取法として、どのくらいの量を摂取したら良いのか、そしてどのくらいの期間摂取したら良いのか、どのくらいの頻度で摂取したら有効なのか、タラハン先生にお伺いします。」

タラハン「決定的な答えはまだありません。文献に示されている結果では頻繁に摂取した方が結果も良いようです。また量としましても8グラムから15グラムぐらい摂取した方が結果は良いようですが、はっきりとした根拠は文献には出されておりません。一日に3回なら良い、4回なら多すぎるというようなことはまだ分っておりません。ただ一日の回数とすれば、3回から5回の間が良いようであるとされています。それから量についてですが、ガムに含まれる量でいえば、確かに含有率(甘味料中)が高いほうが、結果も良いようです。しかし、含有量が50%程度のものでも効果があるという結果も出ています。また、65%以上あったほうが良いとという結果もあります。しかしこれも十分な証拠はまだありません。どういうレジメが良いかということでは、はっきりしていません。カウコ・マキネン教授の行ったベリーズ・スタディという非常に興味深い比較研究がありますが、処方の仕方では10ぐらいの実験群を設けていたと思いますが、その結果を見るのも興味深いと思われます。」

花田「タラハン先生に質問しますが、キシリトール以外の糖、例えば日本ではアスパルテーム、パラチノース、エリスリトール等が使われていますが、それらに興味はありますか。」

タラハン「代用糖として、非醗酵性の糖であって、細菌によって最終産物として酸性の産物ができてこないのであれば、どんなものでも使えると私は思っています。しかし、キシリトール以外の代用糖は、確かに酸の産生は抑制されるかもしれないが、抗菌作用・制菌作用がないわけです。細菌を阻害してプラークを作らないようにする、そういう意味ではキシリトールは効果的であると考えています。」

福田「マルチトール、エリスリトールについてどのように考えていますか。それらに対してPTSがあるのかということもお伺いしたいのですが。」

タラハン「確かにそれらの代用糖に関しても、デンタルプラークによって代謝はされません。しかし、どちらもプラーク中の細菌を阻害する効果はないわけです。そういう意味ではキシリトールに劣ると思います。」

花田「個人的な意見ですが、口腔細菌が醗酵できない、しかし、腸内細菌は醗酵できる、そういうものがもしあるとすれば、それが本当に理想的な代用糖であるわけです。私が知る限りそういう糖はなく、キシリトールの利点は口腔内細菌が醗酵できないために、プラーク叢を変えたり、むし歯を作らないということですが、他方で腸内で醗酵できないことから下痢を起こすということもあるわけです。21世紀になって、口腔内細菌例えばミュータンス菌は代謝できないが、善玉菌ストレプトコッカス・サリバリュースのようなものは代謝できる、良い菌は増えていって、悪い菌は減っていく、そういう違う観点の代用糖が開発できなくはないと思います。ただ現時点ではそういう代用糖はないわけですから、キシリトールは非常に良い代用糖であると思います。」

佐藤「キシリトールが細胞内に取り込まれるということが重要なポイントであり、他の代用糖の場合は、勿論酸を産生しないが細胞内に取り込まれないから、細菌にとっては関係ないことになってしまう。今後遺伝子がはっきり分ってくると、どういう物質を細菌がどうやって取り込んでくるのかが分かり、遺伝子をいじってたんぱく質の形を変える方法等で、代用甘味料をデザインすることも将来可能だと思います。」

福田「キシリトールとショ糖を同時に摂取した場合、実際このような同時摂取は研究会ではすすめていないのですが、効果はどうでしょうか。またこの場合、XS、XRでの違いについて、ご説明いただきたいのですが。」

タラハン「私達が、代用糖について語る時に頭に入れておかなければならないのは、食品に含まれている糖分を完全に別のもので代用するのは無理だということです。70年代の初め頃に、トゥルクで完全にキシリトールで置換してしまうという実験もなされましたが、例外的な実験であったと思います。ですから、毎日の生活の中で、ショ糖を代用糖で完全に置換するというのは、不可能だと頭に入れる必要があります。次に考えなければいけないのが、それに何か足せないかということです。スクロースは日常的な食生活の中で常に存在するものであり、食品を調理する時に砂糖を使うことは否定できないので、そこにキシリトールを加えることを考える。そうなると、キシリトールとショ糖の関係について研究する必要があるわけです。キシリトールの反応として非常に重要なのは、バクテリアに作用してバクテリアのエネルギーを奪ってしまうということです。ですから、バクテリアがエネルギー不足に陥り、そのまわりにスクロースがいくらあってもそれを取り込むことが出来なくなってしまうということです。これが重要です。それから、キシリトールに感受性を持たない菌株ができていくことについて、これは酸を産生しないということと、全く別の側面を持っています。その意義は、この変異体には毒性が非常に少ない、つまりう蝕原性が低いという性質を持っているということです。もう一点、付着能が低いということで、キシリトール非感受性菌は利益をもたらすということです。」

福田「フッ化物とキシリトールの同時応用をした場合、エナメル質への効果、そしてミュータンス菌への効果、XR、XSでの違いというのはでてくるのかという点についてお伺いします。」

タラハン「フッ化物を使った場合、XSとXRでどう違うかについての研究は行われていませんし、私達はデータも持っていません。ただ、キシリトールとフッ化物を同時に応用した場合の効果については、これまでに2本文献が発表されています。この2つの文献によれば、フッ化物とキシリトールと同時に応用した場合には相乗効果があるということです。単独で使った場合よりも組み合わせて使った場合の方が、それぞれの効果が増幅するということです。フッ化物はエナメルの再石灰化を促すという効果があります。キシリトールにも同様の効果があります。また、抗菌作用についてもキシリトールにもフッ化物にもその効果があります。相乗効果が生まれて当然だと思います。」




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